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浮遊するものに関する随想

 

 


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夜の歌 on Vimeo

 

ヒル・ハムット・イズギル氏の詩のなかに出てくる「浮遊するもの」について少し書いておきます。

 

下記の二つの詩のなかに「浮遊するもの」が登場する。一つは「埃」であり、もう一つは「幼い娘たち」である。

 

◆浮遊する「埃」(夏は一つの陰謀)

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2021/09/12/204956

◆浮遊する「幼い娘たち」(夜の歌)

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2022/01/10/235404

 

どちらも所在は空中にある。空中にあるということから想像を逞しくすると「風船」も空中を浮遊する。そういう意味では「私の居場所」の中にもそのような表現がある。

 

◆浮遊する「風船」(私の居場所)

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2021/10/17/125247

 

また、上記タヒル氏の詩「夏は一つの陰謀」では、普通の感覚と逆の(倒置された)力学的関係で空気と埃が描かれている。普通、埃は空気の中を漂い空気に押されて移動する。しかし、「夏は一つの陰謀」では、その力学的関係が逆転している。「浮遊する埃が空気を追う」と。単に物事を述べるだけでなく、文学的に洗練された比喩的な表現がとられている。作者の目が固定されておらず、自由に天地を往来しているかのようである。

 

「無限」の中で氏は、『これを読む妻はまたわかりづらいと愚痴るかもしれない』と書いているが、ご夫婦の間でそのような会話があっただろうことが(微笑ましく)想像される。タヒル氏は過去の人ではなく、現在同じ時間の中に共に生きている言葉の人(詩人)なのだ。

 

◆無限

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2022/01/10/131327

 

浮遊するものは「埃」であれ「幼い娘たち」であれ、「風船」であれ、空中を漂い詩人を取り囲むようにして存在し、詩のなかに表れてくる。細かい物質の場合もあれば、聖霊とか精霊と言われるものである場合もあるのかも知れない。もちろん幼い娘たちの場合は、興味深そうに覗き込んでいる少女たちそのものであるかも知れない。いずれもさりげなく詩のなかに登場していつの間にか静かに退場し、場面の脇でその詩を温かく見守っているように私には思える。

 

「幼い娘たち」について言うならば、娘のように、明るい顔をして、密やかに楽しげな話を交わしながら詩のなかに息づいている。ふと妖精のようにも思われる。

 

小学校1年生のころ福島の須川の畔の小さな借家に家族8人で暮らしていた時、真夜中ふと目覚めるとタンスの上におかっぱ頭の30センチほどの男の子の人形が乗っかっていた。そんな人形は家にはなく、初めて見る人形だった。はじめ人形のように見えたが、よく見るとなんだか生きているように思われた。

私は訝しく思って人形の顔を見つめると、なんと人形も私を見返したのだ。「おやっ」と思うまもなく、その少年は足を踏ん張って「やーっ」と声をあげたかと思うと空中に飛び出した。そして部屋の真ん中辺りまできたところで、突然消えてしまった。後は暗闇と沈黙が残るばかりだった。

今までの人生でたった一度だけの経験だが60年以上の歳月が過ぎても鮮明に記憶に残っている。理論的に科学的に説明がつかない。説明がつかないが、私はそれを私の記憶の中にそのまま置いている。

 

小学生の教え子と話をした時、何かの弾みで少しだけそのことを話してあげたことがある。するとその子たちは堰を切ったように、ぼくもぼくもと似たようなことをどんどん話し始めた。そして暫くの間、わいわいがやがやがが収まらないことがあった。

お父さんやお母さんにそのことを話したら?と聞くと「いやいやはじめから相手にされないからとても言えないよ」とのこと。彼らなりに分かっている(?)ようだった。(^_^)  彼らの「幼な心」のなかにはとても神秘的なものがしっかりと息づいているのだ。もちろん、そうでない子もいるが・・・。(^^ゞ

 

ヒル氏の詩の中に登場した『浮遊する幼い娘たち』はきっと私が幼い時に見た小さな人形のような空中を飛んで消えた男の子の仲間なのかも知れない。

 

※私の幼い時の福島で過ごした記憶については下記

https://historyninjin.hatenablog.com/entry/2021/12/04/041412

 

🎵音楽「夜の歌」の歌詞🎵

 

私は私たちの中で一番の間抜け

闇の由来など気にも留めない

(闇の由来など気にも留めない)

気温が上がった時に

金魚が閉じ込められた氷の塊を思い出す

(氷の塊を)


私たちを動かすスープが

私も動かし続ける

家で手塩を(に)かけて育てた飛べる子羊を

悦に入りながら締めている時に

幼い娘たちが頭の上を浮遊し見つめている


焦げた山の麓に

容易く咲くメロンの黄色の花が

夜の歌声が止んだ時には独りになってしまう

口から火を吹く白い雀が

黄色いなつめの上で物思いに更けながら仰向けに横たわる


私たちにはこのような決まりがある

(私たちにはこのような決まりがある)

誰かの寿命が長ければ

私たちが夜に歌う歌を

その人が始めてくれる

(その人が始めてくれる)

 

〈付加エンディング〉

私は私たちの中で一番の間抜け

私は私たちの中で一番の間抜け

私は私たちの中で一番の間抜け

闇の由来など気にも留めない

闇の由来など気にも留めない

 

 

原詩:タヒル・ハムット・イズギル

2016年5月  ウルムチにて作詩

日本語編訳:むかいだいす、河合眞

 (詩集「聖なる儀式」より)

作曲:historyninjin 2021/12/30

録音 2022/1/10

 

「夜の歌」へのリンク↓

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2022/01/10/235404