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「私の居場所」への随想


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私の居場所 on Vimeo

ヒル・ハムット・イズギル氏の詩「私の居場所」という詩を歌い続ける内に私の中に去来した様々な思いを自由に集めて一言一言に対してその意味を探って思ったことを随想の形にしました。

 

「私の居場所」

 

◆ここは 町の斜め東の
名前が多くの人々の記憶に張り付いた
眠くなる場所◆

・・・町の名はウルムチ
決して「眠く」なるような場所ではない。

が、敢えて眠いという言葉を用いて、その反対の無念さを表そうとしているように、私には聞こえる。

 

◆私は誓える
世の中でこのような場所があることを魚は知らない
ここはまた角のある風の巣窟◆

・・・私たちが対峙している世界と無縁な世界があると仮定してみよう、そう、例えば水中の世界がそれだとしよう。そこに棲む魚たちには国境も束縛もなく自由に暮らしているとする。
彼らには想像すらできない世界が、実は現実に存在しているのだ。ほんの少しも自由が許されることのない、もし何か自由に振る舞おうとするなら、「角のある風」がいきなりたち現れて無慈悲に破壊してしまうのだ。


◆私はここで何の脅威も与えない
私の名に父の名を加えないと
石ほどの価値もない◆

・・・私というここに連れてこられ、ここに閉じ込められた存在には、一体何ができるだろうか。この無力感。私から「父(神)」を取り上げたならば、とたんに私は捨てられた石ほどの価値もない存在になってしまうだろう。

 

◆ここは二十六棟の建物がある庭
私の家は空にある
私と妻と二人の娘が
四つの風船のように浮いている◆

・・・ここには二十六棟のコンクリートの建物が立ち並んでいる。その中に私の家はない。私の家はあの空の上のどこかにあるのかも知れない。ここは私のふるさとでもない。ここは私の居るべき場所でもない。私には妻と二人の娘がいるが、まるでそこで風船のように漂っているばかり。このおぞましさは理解できないだろう。

 

◆ここでは  近所の娘が犬の鳴き声を真似た声を
思いに更けた壁は決して聞かない◆

・・・ここでは、孤独と苦痛に耐えかねた少女が、まるで犬の鳴き声に聞こえるような悲痛な泣き声をあげても、冷たく無表情に立ちはだかる牢獄のような「壁」は決してその声に耳を傾けることをしない。

 

◆ここでは  野次馬のような数えきれない窓が
裸になった秘密の中に落ち着いて立っている◆

・・・ここに立つと無数の窓が目に入ってくる。その窓の内側には多くの人の暮らしがあるのだろうが、その暮らしの全ては覗かれ暴かれ何の秘密も持てない状態にされてそこに置かれている。
無表情で、無情な様で、息も絶え絶えになりながら、呆然と沈黙したまま、そこに立っている。決して「落ち着いて立っている」はずはない。

 

◆私が毎日開くことを強いられた三つの鍵のドア
毎日閉じることを強いられた一対の赤い目◆

・・・その中で、私にはしなければならないことが課せられている。毎日しなければならないこと、それは、「三つの鍵のかかったドアを開くこと」。それと同時に私は私のこの血走った「赤い両方の目」を閉じ続けなければならない。見たことを見なかったこととし、あったことをなかったことにしなければならないのが、私に与えられた仕事。

 

◆毎日自分の皮膚を脱いでまた着る
四部屋ある家
ここは私の居場所  私はここに閉じ込められた者
誰が私を閉じ込めたか  私には自分の手のように明らか◆

・・・毎日毎日来る日も来る日も自分の皮膚を脱いで、またそれを着るという世界をあなたは想像することができるだろうか。発狂するようなことを毎日繰り返すその日々。私の家は家族が暮らすそういう家ではなく、ただそこにある四つの冷たい部屋でしかない。そして、ここが私の居場所なのだ。
・・・私はここに閉じ込められた者
誰が私を閉じ込めたか
そのことは私には
自分の手を感ずるように
明らかなことだ。

いつ、私は行ってあなた(神)の顔を
見ることができるのだろうか。


  2015年4月 ウルムチ

原詩:タヒル・ハムット・イズギル

日本語編訳:むかいだいす、河合眞
    (詩集「聖なる儀式」より)

作曲(一部編詩):historyninjin (2021/10/16)
録音 2021/10/17
随想 2022/1/6

 

独言)

もしタヒル氏が自由を求めてアメリカに渡らなかったら、この詩がおそらく氏の遺言になっていたのではないだろうか・・・。

 

 

「私の居場所」↓

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2021/10/17/125247

 

もう一つの「私の居場所」への随想↓

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2022/01/07/023942