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エフサーネ(伝説)


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◆エフサーネ(伝説)◆

作詩:ムカイダイス 2020/11/15投稿
作曲:historyninjin 2020/11/15
録音:2020/11/16

 


エフサーネ(伝説) on Vimeo


         ◆エフサーネ◆

(2020/11/15   ムカイダイス)

 

私の本棚にある緑の本に
君の名の由来が書かれている
それが心に響かぬように
愛の歌になって歌われてしまわぬように
静寂と沈黙の中に深く埋められている

魂の平原に雪が降る冬の日に
黒いシャツを着た笑顔の君を眺めていると
傷ついた血だらけの大地に訪れる
春に咲くありとあらゆる花が
私の目に映る

風と陽光の中でなびく美しい一輪まで
あと一歩のところで 立ち止まる
私は己におじけつく
そして暗闇に染まる夜に向かって
孤独の方に去ってしまう

私はこのエフサーネに酔っている
今日もそして明日も

 

*エフサーネはウイグル語で「伝説」という意味

 

ئەپسانە

بىر يېشىل تاشلىق كىتاۋىڭغا
ئىسمىڭنىڭ مەنىسىنى يېزىپسەن
ماڭا تەسىر قىلمىسۇن دەپ
سۈيگۈ ناخشىسى بولۇپ ئېيتىلىپ كەتمىسۇن دەپ
خىلۋەت ئىچىدىكى مەڭگۈلۈك سۈكۈت ئىچىگە كۆمۈپ قويۇپسەن

رۇھىمدىكى دالىغا قار يېغىۋاتقان بىر قىش كۈنى
قارا كۆينەك كىيىپ كۈلۈپ تۇرغان سېنى كۆردۈم
قان ياشلىق قارا تۇپراققا كېلىدىغان باھار
باھاردا ئېچىلىدىغان چىرايلىق گۈللەر
كۆزۈمگە كۆرۈندى

پورەكلەپ ئېچىلغان بىر تال گۈلگە
تۆت قەدەم قالغاندا توختاپ قالدىم
مەن ئۆزەمدىن قۇرققان ئىدىم
شۇڭلاشقا قاراڭغۇلۇق بوياۋاتقان كېچە تەرەپكە
يالغۇزلۇققا قاراپ كەتتىم

مەن بۇ ئەپسانىگە مەستانە
بۈگۈن ھەم ئەتە

مۇقەددەس نۇر

 

2020/11/15

 

 

    【エフサーネに寄せる作曲者の心的断章】

2020年11月15日にムカイダイスさんのエフサーネの詩を受け取った。ムカイダイスさん個人と同時にウイグルの人の宿命的精神性を感じた。最後あと一歩のところで、「己れに怖じ気づき」暗闇に染まる闇に向かって自分の身を引く世界を文化的に持っているのだ。

日本の文化の中にも同じような世界があるので分かる気がする。最後の最後は自分の意思で行動しないのだ。先祖なのか神なのか親友なのか愛する人なのか、そのものと自分の関係を考えて、行くべきだという結論(示し)があれば行くし、深い沈黙の世界に身を置くのがよいと思われたときは、そっと静かに身を引くのだ。武士道なのだろうか、奥ゆかしさなのだろうか、己を持たないということを美と感ずる感性からなのだろうか、なんと表現したらよいか言葉がうまく見つからない。

傷ついた血だらけの大地は、侵略者によって蹂躙されたウイグルの国土、黒い服を着た笑顔の君は愛する人、作者は愛する君を失いたくない、失ったときの悲惨な喪失感を知り過ぎるほど知っているのだ。その喪失感はどんなものによっても、どんなことによっても、二度と永遠に取り戻すことができないからだ。

そのためには本棚にある緑の本が開かれてはならないのだ。そこに書かれてあるのは「君の名の由来」、それを知られたら君は作者を置いてどこか遠くへ行ってしまう。そのことが君の目に触れないように、君の心に響かないように、君の生きるべき道に導かないように、愛の歌として歌われてしまったらもはや取り戻すことができないから・・・。

この生涯背負わなければならないエフサーネからおそらく作者は逃れられない、むしろそのエフサーネと共に生きていくことしかできない、選択肢は他にはないのだ。ウイグルの人は常にこのエフサーネと共に歩んできたのだ。己に怖じ気づきながら、しかし作者はその緑の本を隠してしまうことはしない。できないのだ。このエフサーネに、 酔うことしかできないのだ。

ウイグル人の矜持の根元にこんなにも優しい思いやりが極限の形で存在するのだ、わたしはそんなことを感ずる。

                                                               2021/7/10記


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●作曲余話

普通ある詩に作曲する場合、その詩を読んでいて動機的なメロディーが心の中に現れてきてそれを書き取る作業にはいるわけですが、その時現れてくる動機的メロディーは冒頭(一番はじめ)のメロディーであることが殆どです。

けれどもこの「エフサーネ」の場合、なんと途中の「それが心に響かぬように 愛の歌になって歌われてしまわぬように」の部分からメロディーが付き始めたのです。不思議な感覚でした。心の中で鳴り出したその部分のメロディーを書き取って、さて、これをどうしたらいいだろうかと考えていると、するするとメロディーが前後に延びはじめ、するりと全体が完成したのです。思い詰めたり、考え抜いたりということなく、本当にするりと生まれてきたのです。

そんな風にして「この世」に生まれてきたものです。なので、作曲した本人には「これは私のもの(私の所有物)」という感覚はほとんどなく、むしろこの表現形式でよかったのかな?とか、この音楽はどこからきたのだろうかな?などということを考えているといったことが正直なところです。インターネットが発達し楽曲に関する所有権(著作権)の考え方も、昔と比べるとそれなりに変化してきているように思われますが、本人はそういう法的なことを論ずるのは苦手なタイプなので、ただ時代の流れの中で、さてどうしたら(どう考えたら)いいのかなと、徒然思ったり考えたりしています。    2021/7/14

 

追記(2021/9/12)

このエフサーネに先だってむかいだいすさんが作詩された「光」という詩が、この詩の伏線になっているのではないかなと思われます。どうぞご覧になってください。

https://ninjinmusic.hatenablog.com/entry/2021/09/12/115751